Read with BonusRead with Bonus

90話

| マラカイ |

琥珀色の液体がグラスの中で揺れる。私は無意識にグラスを回し、スコッチを通して光が踊るのを眺めている。何時間もこの一杯を飲みながら過ごしてきた。アルコールが欲しいというより、ただ馴染みの安らぎを求めてだ。豊かな革張りの椅子と濃い木のパネルが特徴の応接室は、心地よくも息苦しくも感じる。私が座り直すと革がきしみ、その音が重苦しい静寂の中で妙に大きく響く。

オフィスから景色を変えることで頭がすっきりするかと思ったが、ペネロペの不在は私がどこにいても付きまとう。彼女の香りがここに漂っている。かすかだが間違いなく彼女の香りだ。失ったものを思い出させる残酷な証だ。

携帯が再び...