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第109話

イカロは心臓が止まる思いがした。広場に響く妻のささやきに対して、頭の中で感謝の祈りが千々に巡った。

周りの誰も彼女の言葉を聞いていないことはわかっていたが、彼にとってその問いかけは最大の打楽器オーケストラのように大きく響いていた。

彼はゆっくりと彼女に近づき、指で彼女の美しい顔に触れ、あごを持ち上げて彼女の目と自分の目が合うようにした。彼は飢えるように、彼女の舌先が唇の縁をなぞる様子と、彼が優しく彼女を引き寄せたときの喉の動きを見つめた。永遠に感じられた時を経て、彼が彼女の魅惑的な唇に本当の意味で初めてキスをするとき、彼女はまつげを震わせて目を閉じた。

チョコレートとコーヒーの味、そして...