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第280話

ポール

ドアから離れるのは思ったより難しい。一歩一歩が戦いだ。特に、寝室の壁の向こうからアナスタシアの落胆した嗚咽が聞こえてくると尚更だ。

「泣いているのか?」

たぶん...結局のところ、彼女は祖母が亡くなった日から命からがら逃げ続けていて、悲しむ時間さえなかったんだ。今、やっとその時間ができたのかもしれない。

ベッドの中央で、何か言いたげに、もう少し側にいて欲しいと願うような目で私を見上げる彼女の姿が頭から離れず、引き返して彼女の望みをそのまま叶えてやりたくなる。

「今夜は誰かが必要なのかもしれない」

「いや、誰かじゃない」

「お前だ」

いい加減やめないと。それは違う。俺が知...