第1話
「お前がどこに行こうと、私は必ず見つけ出す。お前は私のものだ。永遠に私のものであり続ける。そして私の種を植え付けてやる、二度と自由になどなれないようにな」
怪物のような男の言葉。
ドレイヴン
ポート・オーチャード駅で列車を降りたとき、最初に目に入ったのは町を包む濃い霧だった。まるで一つの雲から枝分かれした腕のように、重い毛布の中の煙のようなもやが至る所に広がっていた。常緑樹を包み込み、山腹に沿って伸び、ワシントン州ポート・オーチャードの海岸と船着場に覆いかぶさっていた。
午後の真ん中だというのに、空は深い灰色に広がり、細かな雨が空中で舞っていた。美しい光景だった。そして今、ここが私の新しい故郷になる。
フロリダに住んでいた頃、この町に数少ないバーの一つに仕事を応募していた。マイアミから永遠に姿を消す日を待ちながら、この3年間ずっと貯金してきたのだ。約2週間前、ついにチャンスが訪れた。そして私はそれを掴んだ。
とはいえ、マイアミでの私の生活が「生きている」と呼べるものだったかは疑問だ。むしろ、ただ「存在していた」という方が正確かもしれない。
そして...
苦しんでいた。
置いてきた人々の記憶を振り払いながら、適度に混雑した通りに一歩踏み出す。ポート・オーチャードはそれほど大きな町ではなかったが、なぜか通りには多くの人が出ていた。私がいる区画には絵に描いたような店が並び、その背後の丘には古風なコテージ風の家々が立ち並んでいた。右手には船着場近くの新鮮な魚市場が見え、左手には魅力的な地元の人々が商品を売る賑やかな市場があった。
素敵な場所だ。
マイアミで携帯電話を粉々にする前に、この町の地図を研究していた。この場所の写真がかなり正確だったことを嬉しく思う。ネットで見た時は仮想天国のように見えた。雨と霧の中に逃げ込みたい人間にとって、完璧な場所に思えた。現実はその期待を裏切らなかった。
バックパックを肩に高く持ち上げ、新しい職場がある方向の船着場へと向かう。
「ムーンライト・ラウンジ」は高級そうな名前だが、実際はそうではないだろうと分かっていた。彼らが提示している賃金を考えれば。それに、この町は高級車や気取った客で溢れているわけではない。マイアミの図書館でインターネットを通じて応募した時、本当に採用されるとは思っていなかった。ただの長い間抱いていた希望の一つに過ぎなかった。
皮肉なことに、この仕事には店の上にあるアパートが付いていた。一石二鳥だった。だから当然、私の願望リストの最上位にあった。オーナーはバーテンダーとしてだけでなく、店の住み込み管理人のような役割も求めていた。だから、私のような人間にとっては完璧だった。賃貸契約書に名前を載せたくない人間にとって。
もっとも、応募書類で「うっかり」男性の欄にチェックを入れてしまったため、「ドレイヴン・ピッコリ様」宛ての採用通知が来たが、到着するまでこの誤解を訂正するつもりはなかった。今からそれをするところだ。管理人に女性が雇われることはほとんどない。今残された課題は、雇い主が私のちょっとした手違いを見逃して、ここに滞在させてくれることを祈るだけだ。
もしダメなら？まあ、他の仕事を見つけるまでモーテルか何かに泊まるだけだ。今、実際にここにいると、この場所を取り巻く神秘的な雰囲気に完全に魅了されている。今や、ここが私の家になってほしいと思っている。
紫色の現代的なフォントで「ムーンライト・ラウンジ」と点滅するネオンサインを見上げ、深呼吸して中に入る。
バーは清潔で、ほとんど空いていた。この時間帯のバーとしては珍しくもない。薄暗い照明とレトロなレザーの内装が、この場所にマフィア的な雰囲気を与えていた。長い木製のバーカウンターに向かって歩きながら、フードを脱いで周りを見回した。
目が隅の、色付きの前面窓に最も近いテーブルに止まる。そこには三人の男が座っており、私が入ってきた瞬間に全員が顔を上げた。一人が体を硬くし、座り直して私をにらみつける。私もにらみ返す。
胸が締め付けられる。心臓の鼓動が耳に響く。一瞬、彼を認識したような、彼を知っているような気がした。でも、それはあり得ない。
彼は非常にハンサムで、暗い赤褐色の髪を短いポニーテールにまとめ、燃え尽きた石炭のような色の目をしていた。深く、灰色で...どこか鋭い視線。他の二人はもっと普通で、最初の男ほど威圧的ではなかった。特別なところは何もない、ただの筋肉質で頭の悪そうな男たちだ。
彼らの目が私に向かって動き、全員が嘲笑う。私は顎を上げて視線をそらす。三人のうちの一人がオーナーでないことを密かに願いながら。
くそったれども。
バーカウンターに注意を戻し、レジ横の小さなベルを鳴らす。裏にいる誰かの注意を引けることを願って。
オーナーにしては若すぎる背の高い、がっしりとした男が、カウンターの後ろの両開きのドアから飛び出してくる。茶色のもじゃもじゃしたひげと、それに合った頭いっぱいの髪をしており、彼もまた過度に筋肉質に見えた。彼の口が私を見て上方に引きつる。視線が私の頭からつま先まで這い、また戻ってくる。優しい青い目が私のバックパックを捉えると少し細くなる。
「お手伝いしましょうか、お嬢さん？」彼は笑顔で尋ねる。
私は頷く。「バートレットさんですか？」
棚から取ったテリー布きれでタンブラーを拭きながら、彼は頷く。「そうだ。あなたは？」
ここだ。真実の瞬間。
「ドレイヴン・ピッコリです。今日から働くことになっています。」
バートレットは緊張し、目が隅のテーブルに落ち、それから私に戻る。「いや、違う。ドレイヴンは男のはずだ。」
私はため息をつき、バーに近づいて腰掛ける。「いいえ、ドレイヴンは管理人兼バーテンダーのはずです。『ドレイヴン』の性別がなぜ問題なのですか？」
バートレットは笑う。「雇ったドレイヴンは、バーから人を追い出せて、少なくとも45キロは持ち上げられる男だからだ。満月の夜の早朝に銃を扱える『彼』が必要なんだ。そしてあなた？あなたは彼には見えないね。」
「45キロなら持ち上げられますよ」私は変わった笑顔で反論する。「一日に何度もは無理かもしれないけど、持ち上げられます。」
可愛いカードを使えば、彼が納得してくれるかもしれないと思い、声に少し懇願の調子を入れてみる。
彼は頭を振り、琥珀色の液体が入ったタンブラーを私の前に置きながら囁く。「一杯飲んで、それから行きなさい、ベイビードール。この件でご迷惑をおかけしたことをお詫びするが、セクシーな管理人は求めていないんだ。」
私は眉をひそめる。くそ。こうなるかもしれないと思っていたのに、なぜこんなにがっかりしているのだろう？
目に涙が浮かぶが、私は慎重に流さないようにする。自分の思い通りにするには、少し涙を流す必要があるだろう。これから直面する苦労を考えると、すでに目が熱くなっている。ウェイトレスの仕事を見つけられるかもしれない。あるいは、町にストリップクラブがあれば、そこに応募できるかもしれない。ストリップクラブは新しい顔を断ることはない—信じてほしい、私は知っている。
私の不快感に気づいたようで、バートレットはさらに私に近づく。「どれくらい遠くからここに来たんだ、スウィートハート？」
彼の目を見つめ、効果を狙って涙をこらえながら、震える笑顔を浮かべる。「十分に遠いところから。」
彼はため息をつく。「それを聞いて残念だ。でも、力になれないんだ。」
くそっ。