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第8章
和也視点
足元の地面が、揺れ始めた。
最初は気のせいだと思った。何日も続く不眠と感情の混乱が、俺を限界まで追い詰めていたからだ。
だが、酒蔵の窓が激しくガタガタと鳴り始め、試飲室に並んだ高価なクリスタルグラスが、何かに取り憑かれたように棚の上で狂ったように踊り始めた。
地震だ。
「なんてこった! 絵里は今日、中心部のコンサートに!」
俺は震える手でスマートフォンを掴み、必死に彼女の番号をダイヤルする。応答がない。もう一度かける。やはり、繋がらない。無情な静寂と、あの忌々しい話し中の音だけだ。
「クソッ! なんで繋がらねえんだよ!」俺は叫び、スマートフォンを壁に叩きつけ...