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第2章

部屋のドアは、いつものように固くて開かなかった。松葉杖で二度ほど突くと、ようやく音を立てて開いた。

中に広がっていた光景に、私は血の気が引いた。

私のテリトリーであるはずのベッドは、沙織の派手なブランド物のスーツケースに占領されていた。見せつけるように置かれたそれは、まるでここが自分の部屋だと主張しているかのようだ。極めつけに、机の上には勝ち取ったという金メダルが、これみよがしに光を放っていた。

トロフィーは? ゴミみたいに、部屋の隅に追いやられている。

「あら、帰ってたんだ」。奈央はラップトップから顔も上げずに言った。「沙織があなたのベッドに移ったの。もう練習しないんだから、その方が合理的でしょ」

この女、どこまでふてぶてしいのだろう。

「ちょっと待ってよ。ここ、私の部屋なんですけど!」

「『だった』部屋ね。今は彼女のよ。あの子は全国大会に出られる可能性があるんだから」

またこれだ。いつもと同じ。前回は、私が手術を受けている間に、奈央は私の私物をゴミ袋に詰めていた。

でも、もう違う。俯いて、誰かの施しを待つだけの哀れな被害者は、昨日の私で終わりにする。

「やれやれ、あんたって本当に昔から裏切り者のクソ女だったよね。変わらないものもあるって知れて、逆によかったわ」

奈央はついに顔を上げ、作り物の心配をその顔に浮かべた。

「絵里、私はただ現実的に考えて......」

「現実的?」私は床から写真立てを拾い上げた。私と司が県大会で撮った、笑顔と嘘にまみれた一枚だ。「これで十分、現実的?」

私はそれを壁に叩きつけた。ガラスが派手に砕け散る。

「沙織の荷物、どかして。今すぐ」

「絵里、そんなこと勝手に......」

「見てなさいよ」

奈央はあからさまに呆れた顔をしたが、言われた通りにした。

私のスマホが震えた。隆からだった。[駐車場で会おう。話さなければならないことがある]

駐車場での待ち伏せは、まさに予想通りだった。

点滅を繰り返す街灯が、司と隆の姿を闇から引きずり出しては、また突き放す。まるで最終選考で落とされる役者のように、二人はただそこに立ち尽くすしかなかった。

「絵里、頼む」。司はアスファルトの上に膝をついた。「沙織を許してやってくれ。彼女も地獄を見てきたんだ」

「立ってよ、司。みっともない」

隆が前に進み出て、頼れる兄貴のカードを切ってきた。

「絵里、家の評判を考えろ。T県において水原の名は重いんだぞ」

私は二人の顔をじっと観察し、その立ち位置に注意を払った。示し合わせた態度。練習済みのセリフ。

「面白いわね、二人揃って現れるなんて。この茶番でも計画したわけ?」

司は慌てて立ち上がり、パニックに陥った視線を隆に向けた。

「俺たちはただ……あなたのことを心配して」

「私のこと? それとも、あんたたちの罪悪感のこと?」

「沙織は過ちを犯したんだ」隆は、私たちが子供の頃に使っていたような、権威的な口調になった。「誰にだって過ちはある」

「過ち? あいつは私の膝をぶっ壊したんだ!」

「あれは事故だった......」

「ふざけるな!」私の松葉杖がコンクリートを叩いた。「私が馬鹿だとでも思ってるの? この状況が何なのか、私が見抜けないとでも思ってるわけ?」

司の指先が、私の肌に触れる寸前だった。その瞬間、皮膚の下を走る見えない汚染を幻視したように、その手を振り払った。

「あんたたち二人で、この全部を仕組んだんでしょ。あの女に騙されてるんだわ!」

「絵里、正気じゃないぞ」隆はそう言ったが、その目はすでにダメージコントロールを計算していた。

「そう? じゃあ説明してよ。なんで二人して、あの子をそんなに必死に庇うの。説明して」私は司を指さした。「私が病院で目を覚ました瞬間に、なんであんたはあいつの味方についたの? 説明してよ」私は隆の方へ向き直った。「なんであんたは、実の妹よりC県から来たよそ者の方を大事にするのよ」

私たちの間に、ぴんと張り詰めたワイヤーのような沈黙が走った。

やがて、司が囁くような声で言った。

「彼女には、俺たちが必要なんだ」

「じゃあ、私には必要ないってこと?」

二人とも、答えなかった。

夜八時、体操施設のドアを押し開けると、明かりが煌々と灯っていた。

沙織が、私の平均台の上にいた。

私の特注プロテクターをつけ、私が特別に配合した炭酸マグネシウムを使いながら、完璧な演技を披露していた。

「絵里!」細木崇之が、神経質なエネルギーと作り笑いを浮かべて駆け寄ってきた。「ここで何してるんだ? 休んでなきゃだめだろう」

私は松葉杖を武器のように沙織に向けた。

「なんで彼女が私の道具を使ってるの?」

「隆が……あなたは怪我をしているから……沙織が全国大会の準備をする必要があると」

だろうね。

沙織は芝居がかった優雅さで器具から降りた。その表情は、作り上げられた無垢の傑作だ。

「絵里、もし練習したいなら、私どくけど……」

「練習? このボロボロの脚で? ずいぶんと思いやりのあることね、沙織」

彼女はまるで平手打ちでもされたかのようにびくりと体を震わせた。いい気味だ。

「細木さん、水原家からのスポンサーシップは、本日をもって正式に打ち切らせていただきます。即時有効です」

彼の顔から血の気が引いた。

「本気じゃないだろ! うちの予算の半分だぞ!」

「あら、見てなさいよ。隆はこの家の代表じゃない。私が代表なの」

沙織の仮面がついに滑り落ちた。ほんの一瞬、純粋な怒りが垣間見えたが、彼女はすぐに落ち着きを取り戻した。

「絵里、私に腹を立てているからって、みんなを罰するのはやめて......」

「罰? 変なこと言うな、お嬢さん、これは罰じゃないわ。ビジネスよ」

翌日、昼食時でごった返すカフェテリアは完璧な舞台だった。

私は誰もが見聞きできる中央のテーブルに陣取った。司が慎重に近づいてくる。きっと、甘い言葉で私を説得して考えを変えさせられるとでも思っているのだろう。

哀れな男。

「みんな、聞いて!」私の声はナイフのように雑談を切り裂いた。「本日をもって、五条司への金銭的支援を全て打ち切ります!」

カフェテリアは水を打ったように静まり返った。

司の顔が真っ白になる。

「絵里、ここでやめてくれ! みんなが見てる!」

「いいじゃない。見せてやればいいのよ。躾のなっていない犬が、ご主人様に牙を剥くとどうなるのか。その無様な末路を、特等席で見物させてあげましょう?」

「お前の金なんて頼んだ覚えはない!」

その嘘があまりに露骨で、私は思わず笑ってしまった。

「ふざけないで! あんたのNFLの夢? トレーニング? あんたの存在そのもの? 全部、私が買って払ってあげたものじゃない!」

学生たちが囁き、指をさし、録画している。司のSNSは間もなく炎上するだろう。

「内々で話せるだろ……」

私はまだ湯気の立つコーヒーカップを手に取った。

「内々で? あんたが内々で私の敵を支持することに決めたみたいに?」

「絵里、やめ......」

熱いコーヒーが彼の顔面で炸裂し、小気味よい、とさえ言える水音が響いた。

彼はよろめきながら後ずさり、熱い液体が髪から滴り落ち、彼のブランド物のシャツを台無しにした。

「これが、あんたの内々の話よ、クソ野郎!」

カフェテリアが爆発した。「マジかよ!」「今、フったのか?」「司、終わったな!」

私は松葉杖でバランスを取りながら立ち上がり、最後に一度、群衆に向かって言った。

「これを録画してる人、ちゃんと私の写りがいい方から撮ってよね。それと司? NFLのスカウトにこれをどう説明するか、頑張ってね」

その夜、ようやくたどり着いた新しいアパートは静かだった。

一人だけ。偽りの友人もいない。裏切り者の家族もいない。

いるのは私と、窓の外に広がる街の灯りだけ。

ポケットの中でスマートフォンが短く震え、ディスプレイに悟の名が浮かぶ。通知は、たった一行の残酷な要約だった。「司の読売ジャイアンツ評価面談、中止」

私は微笑み、窓に映る自分に向かってワイングラスを掲げた。

前回は、沙織が同じカフェテリアで私を笑いものにした。彼女が被害者を演じている間、私に惨めな思いをさせた。今、司は、大切な人たち全員の前で屈辱を味わうのがどんな気分か、身をもって知っただろう。

これはまだ、ほんの始まりに過ぎない。

私にはリストがあって、それを体系的に片付けているところだ。司は潰した。次は隆。そして沙織は?

あのビッチは最後に燃やす。私から奪ったものすべてが灰になるのを、見届けさせてから。

さあ、借金を取り立てる時間だ。

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