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76話

メッセージを送ったウィノナは、ザカリーからの返事を待たずに彼をブラックリストに追加すると、スーツケースを引いて不動産屋を出た。

帰宅ラッシュの時間帯で、タクシーはなかなかつかまらなかった。ウィノナはとりあえず近くのホテルを探して泊まるつもりだった。一日中、引っ越し作業と部屋探しで疲れ果てており、もうこれ以上移動する気力もなかったのだ。

「プップー」

その時、一台の黒いSUVが彼女の隣に停車した。

ウィノナが振り向くと、助手席の窓が下り、マシューの整った穏やかな顔が現れた。

「ウィノナ、どうしたんだ?」

「引っ越し中なの。六時ごろに契約を結ぶ約束だったんだけど、大家が土壇場でキャンセル...