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第642話英雄は美を救う

ウィノナは振り返りもせず、ザッカリーがどう場を収めるかなど気にも留めずに立ち去った。歩き去り際に、彼の手からコーヒーまでひったくっていく。

彼女のハイヒールの音が遠ざかっていく。残されたザッカリーは、空になった手を宙に浮かせたまま、ただ立ち尽くしていた。

背後で、メーヴが手をついてなんとか立ち上がろうともがいていた。その動きで関節の傷口が再び開き、鮮やかな赤い血が彼女の細い脚を伝って流れ落ちる。

近くにいた誰かが口を挟んだ。「ひどい出血じゃないか。危ないぞ。すぐに病院に連れて行ってやれよ。一体どんな彼氏なんだ?」

ザッカリーは苛立ちに眉をひそめた。事情も知らないで口を出す人間が多すぎる...