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グレース

トリスタン視点

肌の下で怒りがまだくすぶるのを感じながら、俺はヴィーエフエスを後にした。顎の緊張は鋼鉄の万力で締め付けられているかのようだ。デランスの無関心さは、洗い流せない悪臭のように俺にまとわりついて離れない。あの得意満面な様子……あの無感動ぶり、そしてエロナの苦しみを、栄光を追求するための必要悪か何かのように一蹴したあの態度。出ていく際に彼女の部屋のドアを叩きつけずに済ませるのが精一杯だった。だが、まだ終わりじゃない。対峙すべき過去の亡霊が、もう一人いた。

グレイス。

その名が思考に忍び込んだ瞬間、口の中が苦くなった。ここ数ヶ月、彼女のことなど考えてもいなかった。俺たちの喪失――あの知...