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71話

【サラ】

黒いセダンがセオドアの車椅子に向かってまっすぐ加速した瞬間、私の心臓はほとんど止まりそうになった。わたしの感覚のない指からは綿菓子が滑り落ち、凍った歩道に桜の花びらのようにピンク色の綿菓子の糸が散らばっていった。冬の冷たい空気が頬を刺すなか、私は前に飛び出した。思っていたよりも速く足が動いた。周りのすべてがぼやけて見えたが、車椅子に座ったままのセオドアの姿だけははっきりと見えていた。

「セオドア!」彼の名前が、周囲の建物に響き渡るような必死の叫び声となって喉から絞り出された。その瞬間、これまでの私たちのすべての言い争い、私たちの間に築いてきたプライドの壁が崩れ去った。彼に間に合う...