58話

【サラ】

白い蘭の花は、私が母のアパートへと続く擦り切れた階段を上る間、腕の中で震えていた。傷だらけの壁と明滅する蛍光灯を背景に、この花はばかげるほど高価に感じられたが、手ぶらで訪れる気にはなれなかった。母がこれまで私のために犠牲にしてきたことを思えば。

母は私がノックする前にドアを開けた。看護師としての直感が私の存在を感じ取ったのだろう。彼女の笑顔は蘭の花を見て一瞬揺らいだが、すぐに取り繕った。「サラ、あなた。さあ、入って」

アパートは何も変わっていないのに、私の記憶よりも小さく感じられた。同じ丁寧に手入れされた家具、同じ几帳面に整理された作業スペース。そこで母はいつも患者のカルテを整...