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26話

祝珩は酒杯を唇に運んで一口含むと、爽やかな桃の香りと深みのある酒の芳香が鼻腔に広がり、彼が意識的に捨て去ろうとしていた記憶が一瞬によみがえった。

祝珩は目を開き、「いや、別荘へ行こう」と言った。

車中で、秘書は何か言いたげな様子で、ついに我慢できずに口を開いた。「前回ご指示いただいた契約解除書類ですが、お持ちしましょうか?」

祝珩は窓の外から聞こえる風の音を聞きながら、心身に染み付いた桃酒の香りを感じつつ、額に手を当ててしばらく考え込んでから、「持っておけ」と答えた。

「かしこまりました」

郊外の別荘。

秘書の運転は決して遅くはなかったが、場所があまりにも遠く、急いでも一時間以上かかってしま...