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35話

彼女は思わず逃げ出したくなった。心の準備はできていたはずだ。義兄と姉にもう二度と会いたくない。彼女の意識の中で、二人は共謀者であり、彼女を傷つける存在だった。

しかし、なぜか実際にこの瞬間を迎えると、足が動かなくなった。一歩一歩と階段を上り、あの懐かしい匂いのする方向へと近づいていく。

江深の長身は壁に寄りかかり、片手にタバコ、もう片方の手には上着をかけていた。長い脚、品のある雰囲気、額の乱れた前髪が垂れ下がっている。少し寂しげに見えるけれど、相変わらず端正な顔立ち。彼女は思わず胸が痛くなった。

「あなた、どうして私がここにいるって分かったの?」

江深は彼女を一瞥すると、手を伸ばして彼女の荷物...