




1話
「三十万だ!」
「一銭も引かねぇぞ!」
「こっちに来いよ、お前!何を清純ぶってんだ?!大人しく服を脱いで写真を撮らせろ。さもないと、どうなるか分かってるだろ」
南城、浜海区の路地裏。
五人の刺青の男たちが、白いワンピースを着た美しい少女を路地の奥へと追い詰めていた。少女の顔は涙でいっぱいで、ただ頭を振り続け、極限まで無力な様子だった。
路地の入り口には、一人の浮浪者が壁に寄りかかって座り、虚ろな目で前方の空っぽの通りを見つめ、何を考えているのか分からない。
風が落ち葉を舞わせていた。
「兄貴、どうせ最後は店に売り飛ばすんだろ?誰が得するにしても同じだし、俺たちで…」
「いい考えだな。この娘は水々しくて、今の相場だと一回千円は下らねぇ。三十万なら三百回分だ。俺たち兄弟で損するわけにはいかねぇな」
「………」
少女はそれらの声を聞いて、思わず大声で泣き始めた。彼女の無力な視線が路地の入り口にいる浮浪者に落ちた。さっきこの路地を通りかかった時、この浮浪者に何か不思議な懐かしさを感じていた。
しかし、よく見る間もなく、この連中に追いかけられ、ヌード写真を撮るよう強要されていたのだ。
彼女はお金を借りていた。
三十万円。
でも確かに借りたのは三千円だけなのに、どうして百倍になってしまったのか。当初は月利三百円と言われていたのに。
この期間、彼女は昼間は学校に通い、それ以外の時間、夜の自習も含めて全て抜け出しては、アルバイトをして返済に充てていた。しかし、返せたのはたった一万円ちょっと。三十万にはあまりにも遠すぎた。
「や、やめて…」
少女は後ずさりし続け、五人の男たちは笑みを浮かべながら、少女のドレスを引っ張り始めた。
「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん……!」
少女はあまりの恐怖に目を閉じて叫び出した。涙がぼろぼろと流れた。人は最も恐怖を感じる時、自分が最も慣れ親しみ、頼りにしている呼び名を叫ぶものだ。
少女が「お兄ちゃん」と叫んだ瞬間、路地の入り口にいた浮浪者の虚ろな目に、突然光が宿った。まるで暗雲の中から差し込む夜明けの一条の光のように。
「お兄ちゃん?お前のお兄ちゃんなんて全員死んでるさ。どこにお兄ちゃんがいるって言うんだ」
「叫べよ、今日は喉が潰れるまで叫んだって誰も助けに来やしねぇよ」
五人のチンピラは口元を歪めて笑いながら、さらに迫った。
そのとき。
一つの影が路地に飛び込んできた。
「彼女から離れろ」
声はかすれて低かった。
浮浪者の手が、リーダー格のチンピラの肩に置かれた。そのチンピラは少女の肩紐を引っ張っていた。
「てめぇ誰だよ?」
「死にてぇのか?!」
チンピラは不機嫌そうに振り向き、浮浪者だと分かると、さらに怒りが増した。腰から鉄筋の警棒を抜き取り、浮浪者の頭に叩きつけた。
黒い血が、七つの穴から一気に流れ出した。
浮浪者がまだ手を離さないのを見て、チンピラは手にした鉄筋をもう一度振り上げた。その瞬間、浮浪者は手を上げて鉄筋の中ほどを掴んだ。
強く握りしめると、掴まれた部分がなんと粉々になった!
チンピラは手に残った半分の鉄筋を見て、一瞬で呆然となり、後ずさりし始めた。そして五人は顔を見合わせると、まるで幽霊でも見たかのように狂ったように路地の外へと逃げ出した。
浮浪者はそんな連中に構わず、ただ血を流しながら壁際に寄りかかる少女に一歩一歩近づいた。
手を上げて少女の髪をかき分け、彼女の顔をはっきり見ようとすると、少女は恐怖で体を震わせた。
しかしその時。
浮浪者の体がぐらつき始め、目の前の全てがぼやけて二重に見えた。彼の頭に激しい痛みが襲い掛かり、何かが脳内で生まれてくるようだった。
「ドン」という音とともに、浮浪者の体が止まり、後ろに倒れた。まるで水門が開かれたかのように、記憶が洪水のように脳裏に押し寄せてきた。
………………
「龍神の入京をお見送りいたします!」
「龍神の入京をお見送りいたします!」
「龍帥、ご安心を。この鉄狼、命に代えても秘境をお守りいたします!」
百万の軍勢が連なり、礼砲が鳴り響き、全員が黒いコートを羽織りヘリコプターに乗り込む青年を敬意を込めて見送った。一人一人の目には熱狂と崇敬の念が宿っていた!
これこそ、彼らの秘境の王!
…………
「龍神楚修よ、恨むなら自分の強さを恨め。龍国はお前のような強大な存在を許さん」
「安心しろ、お前がここで死んだことなど誰も知らん。お前をこの世界から完璧に消し去ってやろう」
「そしてお前の家族だが、男はすべて殺し、女は全て娼婦にしてやる!」
……………………
「あ、あなた大丈夫…?」
少女は涙を拭いながら、自分を救ってくれたこの浮浪者の側に膝で這い寄った。浮浪者は目を開いたまま、じっと空を見上げており、雨粒が目に入っても瞬きひとつしなかった。
突然、彼は笑った。
「楚修」
浮浪者は一つの名前を口にした。久しく忘れていた名前を。
二十一歳で軍校のエリートとして龍国の秘境に入り、二十二歳で功績を立て将となり、二十四歳で龍国秘境の守護者となり、二十六歳で龍神の称号を受け、龍国全土の守護神となり、海外諸国に威光を轟かせた。
六年で将の道の最高峰に達し、龍国で最も輝かしい比類なき将星となった!
しかし、朝廷に召され、京城警備軍の指揮権を受け取ろうとした時、裏切り者の一杯の毒酒によって心臓が止まり、帝京北郊の山中に埋められた。
幸いにも天の加護があり、その夜大雨が降り、その山は土砂崩れを起こし、彼は這い出すことができた。
体は強靭であり、毒酒の下でも命を保ったが、毒素が脳に入り、記憶を失った。
帝京から流浪を始め、潜在意識だけを頼りに故郷へと向かって移動し続けた。
丸一年と三ヶ月、ようやく南城に辿り着いた。
「あ、あなた何て言ったの?!」
少女は「楚修」という名前を聞いて、呆然となった。この名前は彼女にとってあまりにも馴染み深く、そして彼女の世界から丸七年間も消えていた名前だったからだ!
七年前のあの風のような姿は、二度と戻らなかった。
「楚岚、俺だ」
「俺が、帰ってきたんだ」
楚修の目に、驚くべき殺気が宿ったが、楚岚を見た瞬間、水のように優しくなった。もし秘境の百万の猛者たちがこの姿の龍神を見たら、きっと驚いて顎が外れるだろう。
軍での苦難の日々と七年間の隔たり、そして今の惨めな姿のせいで、楚岚はすぐには楚修だと気づかなかった。
「お兄ちゃん…本当にお兄ちゃんなの?!」
楚修だと確認した楚岚は、喜びのあまり言葉にならず、突然楚修を抱きしめて、声を上げて泣き始めた。
「もう大丈夫だ、お兄ちゃんが帰ってきたよ」
楚修は眉をひそめた。彼が秘境に入る前、家族は裕福な暮らしをしていた。特に兄は起業して上場を果たし、経済的自由を手に入れていた。
妹がどうして借金をしなければならないのか?
「兄貴は今どうしてる?」
楚修は地面から立ち上がった。記憶が蘇ったことで、彼の力も幾分か回復していた。全盛期の一割程度だったが、体表の傷を治すには十分だった。体内の龍気が流れ、数秒で完全に回復した。
「お、お兄さんは…」
兄の話題が出た途端、泣き止んでいた楚岚はまた両手で口を覆い、涙が止まらなくなった。
「兄貴がどうした?!」
楚修の口調に殺意が込められていた。
「お兄さんは…お兄さんは死んだの!」
「わぁぁ」と声を上げて泣き出し、楚岚はその場にしゃがみ込んだ。
ドーン!
空に雷鳴が轟き、楚修の眼差しは極限まで冷え切った。この眼差しが秘境の軍士の目に入れば、それは「死骸が野を覆う」ことを意味していただろう。
「林紫がお兄さんを殺して、王家と手を組んで私たちの会社を乗っ取ったの」
楚岚は顔を上げて楚修を見つめ、涙でいっぱいの目で、唇を噛みしめながら言った。目には怒りと恨みの色が浮かんでいた。
楚修は楚岚に兄がどのように死んだのか詳しく尋ねなかった。彼は知っていた。楚岚の純真な性格と年齢では、この事件の真相を完全に理解することはできないだろう。
彼の眼差しは、この瞬間、極限まで冷たくなった!
七年前、彼は軍校から秘境に選ばれた。その時、妻はちょうど妊娠したばかりだった。
秘境に入れば、自分のすべてが龍国の極秘事項となり、家族とは一切連絡を取ることができない。
「お前の義姉は今どこにいる」
楚修の妻は林紫という名で、南城の林家の娘であり、この七年間、彼が常に思い続けた最愛の人だった。
当時、楚修の兄・楚河が創立した修河集団はちょうど上場したばかりで、楚家は南城の二流家族の中で最も強力な一族となり、同じく二流家族の林家とは釣り合いがとれていた。
楚岚は楚修の問いを聞くと、すぐに歯ぎしりしながら言った。「お兄さんが亡くなった後、林紫は熙熙を林家に連れ帰って、熙熙の姓まで林に変えたわ。こんな薄情な女見たことないわ!」
「熙熙…」
これは彼が初めて知った娘の名前だった。
しかし、自分の娘の姓が変えられたと聞いて、眉をひそめた。
彼、楚修の娘が、どうして姓を変えられるというのか?!
目の奥底に、凛とした寒気が走った。
兄を謀殺し、楚家の財産を奪い、そして自分の娘の姓を変える。
まさに「最も毒なのは女の心」という言葉通りだ。
しかし同時に、彼は不思議に思った。彼の記憶の中の林紫は、優しく素直で、純粋で善良な女性だった。こんなことをするはずがない。
七年の時間が、女性の本質を変えることができるのだろうか。
あるいは、当時の林紫は彼の前でだけ偽りの善良さを装っていたのか。
「携帯を貸してくれ」
楚岚は立ち上がり、素直に携帯を楚修に渡した。
楚岚から携帯を受け取ると、楚修は一つの番号、「1」をダイヤルした。
これは龍神専用の番号だった。
「ツー…」
わずか一秒で電話はつながり、受話器の向こうから、殺気を帯びた声が聞こえてきた。「誰だ」
「西江省の南城にいる」
楚修の声は、とても静かだった。
しかし電話の向こう側は、完全に沸き立った!
「龍帥!」
「兄弟たちは知っていました、龍帥がまだ生きておられることを!」
楚修は電話の向こうの興奮した声に応じることなく、二言目も言わずに電話を切り、路地の外へと歩き出した。
「お兄ちゃん、どこに行くの?!」
楚岚は焦って声をあげた。
「林家だ」
楚修の眼差しは、深淵の霜のように冷たかった。