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719話

孤男寡女、薄暗い灯りの小さな旅館で向かい合って座っている。

周囲に流れる背景音楽は、官能的で熱く絡み合うような音色が伴奏となっている。

だがそんな極めて甘美な雰囲気の中で、肖宇はただ懸命に彼女を説得し、行き止まりに突っ込んでしまった小さな雌牛を引き戻そうと試みるばかりだった。

そんな春の良き時を二人が無駄にしている頃。

帝都郊外の陰鬱な森の中では、殺気が四方に満ちていた。

「サッサッ、サッサッ!」

人影が低い茂みを掠める音が、静寂の闇の中で無限に増幅されていた。

そのカサカサという音は一方向からではなく、四方八方から響き、まるで凶暴な獣の群れが森の中を必死に駆け回っているかのような印象を与えて...