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1295話

楠歌が舞台に上がると同時に、空気のように清らかで心地よい歌声が立ち込め、周囲は一瞬にして静まり返り、皆が陶酔した表情を浮かべた。

楠歌の歌を聴くことそのものが一種の贅沢で、彼女特有の声質と相まって、誰もが簡単にその世界に引き込まれ、感情移入してしまう。

林浩も感嘆せずにはいられなかった。楠歌は十年前と比べて、格段に成長し、はるかに優れた歌手になっていた。

彼女は休憩を挟むことなく、何曲も続けて歌い上げた。

引退コンサートということもあり、彼女は多くの曲を歌うつもりはなく、コンサート終了まで歌い続ける予定だった。当然、ウォーミングアップのゲストも招いていなかった。

最後には、ファンたちも見かねて...