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862話

タクシーが一番必要な時こそ、全く見つからないものだ。

必要ない時には、タクシーが次々と目の前を通り過ぎる。

これがタクシー現象というものだ。

沈岳はまさに今、この現象に遭遇していた。

蔺香君と別れて路地を出た後、沈岳は十数分待ったが、空車のタクシーは一台も来なかった。

仕方なく、彼は熏熏に電話をかけることにした。

卿本佳人はここからそう遠くなく、熏は電話を受けるとすぐに手元の仕事を放り、最速で駆けつけてきた。

「熏熏、すまないな」

沈岳は車に乗り込むと、熏熏がまだモコモコのルームシューズを履いたままだったのを見て、彼女がどれほど急いで来てくれたかを悟り、申し訳な...