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632話

「姉のカードに残高が二千万円以上もあるのを見て、安晴はすっかり姉が金持ちだと思い込んでしまった。

特にスポンサーが残金をあっさり振り込んだ後は、億万長者の気分で、母親を救えると確信していた。

だが会場でこれほど多くの頭が、辛教授の手にある補天石を食い入るように見つめているのを見ると、心が少しずつ沈んでいくのを感じた。

絶望に近い声が、彼女の耳元で繰り返し響いた。「謝安晴、どんなことがあっても、あの石を手に入れるのよ!どんなことがあっても」

興奮のあまり、安晴の体は小刻みに震え、歯までカチカチと音を立て始め、隣にいた人物の注意を引いてしまった。

その人物は黒いコートを着て、春のように暖...