4話
「あっ！」
平手打ちが下りる前に、若い女性は悲鳴を上げた。なんて退屈な。
沈岳は急に興味を失い、彼女を解放した。
鞭打たれる覚悟をしていた若い女性は、解放されてしばらく呆然としていた。思わず尋ねる。「あ、あなた、どうして私を叩かないの？」
沈岳は何も言わなかったが、モナリザのような笑みを浮かべた。
彼女が言ったその一言で、あの恐ろしい女性の手下ではないことが証明された。
あの女の部下には、こんな頭の弱い者はいないからだ。
あの女と関係がなければ、この若い女性がどんな目的で沈岳に近づいても、大した問題ではない。
若い女性は沈岳のこの笑顔を恐れ、慌てて立ち上がり、壁の隅に身を縮めた。
「俺はお前とくだらない話をしている暇はない」
沈岳はタバコを取り出し、一本に火をつけた。「ただ一つだけ分かってほしいことがある」
沈岳が本当に手を出す様子がないと察した若い女性は、安心した。「何？」
「俺の時間は貴重なんだ」
「あなたの時間が貴重？」
若い女性は困惑した。
こんな場所に住んでいるろくでなしの時間が、どれほど貴重なものなのか、彼女には理解できなかった。
「なんでそんなに頭が悪いんだ？」
沈岳は失望の表情を浮かべた。「胸も大きくて頭も良いという珍しいタイプかと思ったのに、結局は頭空っぽじゃないか。俺の時間は貴重だって言ったのは、つまり、お前に付き合ってる時間でお金を稼いでいたら、少なくともこれくらいは稼げるってことだよ」
そう言いながら、沈岳は二本の指を立て、若い女性の前で振った。
もし彼女がまだ理解できないなら、沈岳はきっと態度を豹変させ、「金を払わないなら、出て行くな！」と怒鳴るつもりだった。
恐らく彼が豹変するのを恐れたのか、若い女性はすぐに理解し、おどおどと尋ねた。「あ、あなた、お金が欲しいの？」
沈岳は眉をひそめ、不満そうに言った。「もう少し遠回しに言えないのか？直接金の話をするなんて、なんて下品だ」
若い女性の口元が引きつった。彼に土下座しそうになった。
この男、本当に厚かましすぎる。
でも彼女はさらに安心した。
お金で解決できる問題は、問題ではない。
深く息を吸い込み、彼女は落ち着いた声で尋ねた。「いくら欲しいの？」
「はぁ、もう『お金』なんて汚い言葉を使うなって言ったのに、まだ直らないのか」
沈岳は心を痛めるような表情をしながらも、再び二本の指を立て、断固として言った。「これより少ないなら、部屋から一歩も出さないぞ」
「二百万？」
若い女性の顔色が変わった。
沈岳は驚いて、思わず罵った。「くそっ、恐喝罪で俺を刑務所に送りたいのか？」
以前なら、沈岳は二百万なんて眼中になかっただろう。
しかし今は、二千元もあれば十分だった。若い女性の相手をした労力代として。
二百万でなければ、若い女性は安心した。「じゃあ、二十万ね」
沈岳は話すのも面倒で、ただ首を振った。
この女は本当に彼が法律を知らないと思っているのか。二十万でも恐喝罪は成立する。
二千元でも成立するが…
「わかったわ」
この男が恐喝すらできないと見抜いた若い女性は、瞬時に自信を取り戻し、急いで服を着た。「遅くとも明日の午前十時までに、あなたの携帯にお金を送るわ。ねえ、あなたの携帯番号は？」
沈岳は少し不機嫌そうだった。「この程度の金額で、ツケにするのか？」
「この程度の金額？はぁ、私がいつも現金を持ち歩いているように見える？」
若い女性は反問し、すぐに冷笑した。「私が踏み倒すのが怖いなら、行かせなければいいじゃない」
「もういいから、行ってくれ。俺を煩わせないでくれ。さあどうぞ、見送りはしないよ」
沈岳はお金をもらわなくても構わないから彼女に出て行ってほしかった。彼女の腕をつかみ、抵抗する彼女を無視して押し出し、ガチャンとドアを閉めた後、一連の数字を告げた。
彼女が携帯番号を忘れないように、三回も繰り返した。
沈岳はもはや、この美女が夜道を歩いて不審者に遭遇することを心配していなかった。むしろ彼女に誘惑された男が、すぐに一発やらなければ、七つの穴から血を流して死んでしまうのではないかと心配していた。
「あの小悪魔、本当に人を誘う」
死体のようにベッドに横たわりながら、沈岳が壁の隅のティッシュを取ろうとしたとき、一足の黒いストッキングを見つけた。
問うまでもなく、このストッキングは若い女性の忘れ物だった。
「汚い靴下をどこにでも捨てるなんて、全く不衛生だ」
沈岳は黒ストッキングを捨てようとしたが、節約癖が出てしまった。
ティッシュは安くても、買うにはお金がかかる。