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296話

心愛の人に抱かれる感覚は、この上なく幸せで甘美だった。

本能的に、雲霞は沈岳の首に腕を回し、小さな頭を彼の胸に寄せて、力強い鼓動に耳を傾けた。目を閉じ、彼女は囁くように呼びかけた。「お兄さん」

沈岳は「うん」と応え、「どうした?」

雲霞はもう一度呼びかけた。「お兄さん」

「うん」

「優しいお兄さん」

「うん」

沈岳には分かっていた。雲霞は単純に彼を呼びたいだけで、特に他意はないのだと。

だが葉修羅の耳には、それはまったく別の意味に聞こえた。

彼女は、雲霞がこんなにも甘えた口調なのは、以前自分が沈岳の体に覆いかぶさっていたのを見て、嫉妬しているからだと思い込ん...