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656話

先ほどの戦いで、慕太白の拳はすべて張弛の胸を狙っていた。彼の目にはそれしか見えなかった。他の肢体は全く見えず、ただ黒い影が揺れ動いているだけ。そうであれば、胸らしき場所を激しく叩くしかなかったのだ。

張弛の胸を打つため、慕太白は自分が数カ所傷を負うことも厭わなかった。一発、二発、三発と狂ったように攻撃を繰り返す。慕太白は張弛に何発も打たれたが、同様に相手の胸も無数回打ち抜いた。張弛は慕太白の攻撃を受けても一時的な息苦しさを感じるだけだと思っていたかもしれないが、実際はまったく違う。慕太白の拳には内に秘めた暗劲が込められていたのだ。

一見すると荒々しい拳だが、より危険なのは綿の中に針を隠した...