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304話

渇望状態の夏晴と理性的な状態の夏晴は、まるで別人のようだった。

あの時の彼女は、狂おしいほど情熱的で、人を魅了する存在だった。そして今の彼女は、知的で気品に溢れている。さっきトイレで身だしなみを整えたようで、恐らく顔を洗い直したのだろう。彼女のナチュラルメイクは、すっぴんとほとんど変わらない。髪はまだ少し湿り気を帯びている。彼女がこうして口を開くと、先ほどまで二人の間に漂っていた波紋が、まるで消え去ったかのようだった。

「本題に入りましょう」

彼女がそんなメッセージを私に伝えているようだった。

これこそが、市内で最も若い金融界の女傑なのだ。

「ほう?」

私は眉をわずかに寄せた。

夏晴...