4話
「このクソ野郎め！」私は怒りを覚えた。ロウスーはまったくのトラブルメーカーだ。十回バーに行けば、八回は何かしら問題を起こす。
「彼を責めないで、今日は機嫌が悪いんだから」私のいらだちを察して、チェン・ムーは疲れた声で説明した。
「何があったんだ？失恋か？あいつのことだから、一日に三回五回失恋したって普通だろ」不機嫌ながらも、私はすぐに立ち上がって外に向かった。
電話の向こうでチェン・ムーはしばらく躊躇してから、私の質問には答えず、「ちゃんと彼の面倒を見てやってくれ」と言い残して電話を切った。
チェン・ムーは私とロウスーの共通の友人で、大学で初めてバーに行った時から知り合い、今に至るまで付き合いが続いている。
マンションを飛び出して大通りに出たが、天は私に意地悪をするかのように、五、六分も待ったのに、タクシーが一台も通らなかった！
焦っていると、ふと近くのマンションの入り口に停まっている二台の高級車が目に入った。先頭のメルセデスGLE450のドアが開き、一人の女性が降りてきた。なんと、昨日私を泊めてくれて、今日の午後にも口論したばかりの美女だった。
後ろのBMW7シリーズからは中年男性が降り、彼女の側に行って話し始めた。
二人は何かを話し、次第に興奮してきた。美女が立ち去ろうとすると、中年男性が彼女の腕をつかみ、表情を激しくして必死に説明しているようだった。
この光景を見て、ある冗談を思い出した。金持ちの美女は、彼女の母親と寝ている男が金持ちか、彼女と寝ている男が金持ちか、どちらかだという。
そして目の前の状況は、前者とは考えにくかった。
他人の生活に首を突っ込むつもりはなかったが、ちょうどその時、空車が通りかかったので、手を挙げて乗り込もうとした。
ドアを開けながら、もう一度二人を振り返ると、まだ揉み合っていて、マンションの入口には何人かの見物人が集まっていた。
突然イライラが込み上げてきた。私はバタンとドアを閉め、二人の方へ向かった。背後でタクシー運転手が罵声を浴びせてきた。
二人の側に行くと、乱暴に二人を引き離し、中年男性を押しやった。「おっさん、そんな年齢で若い女の子と公衆の面前で引っ張り合うなんて、恥ずかしくないのか？」
中年男性は驚いた様子で私を見つめ、そして顔を曇らせた。「君は誰だ？」
「彼女の友達だ」私は美女を指さした。
「シャオシャ、この人が君の友達？見たことないけど？」中年男性は美女の方を見て尋ねた。
美女は顔を横に向け、私に話すときと同じく冷たい口調で言った。「シュー社長、友達を作るのにいちいちあなたに報告する必要はないでしょう」
「シュー社長」という言葉で、二人の関係がより確信に変わった。
中年男性はそれを聞いて深いため息をつき、諦めた表情で言った。「シャオシャ、昨日のことは確かに私が悪かった。怒らないでくれ」
美女が反応しないのを見て、中年男性は私の方を向き、肩に手を置こうとしたが、私が避けると、彼は気まずそうに苦笑した。「若い友よ、君がシャオシャの友達なら、彼女を説得してくれないか。多くの誤解は、コミュニケーション不足から生じるものだ。私は…」
「お言葉ですが、友達としてどうすべきか、私は自分でわかっています」私は彼の言葉を遮った。こういう金だけあって品のない老人は、私が最も軽蔑するタイプだ。金があるからって何様なんだ？金があれば若い女性を奪っていいのか？
口を開きかけた中年男性だったが、結局何も言わず、寂しげに車に戻り、去っていった。
彼が去るのを見て、私は美女を一瞥し、何も言わずに立ち去ろうとした。しかし振り向くと、見える範囲にタクシーは一台もなく、待っている人だけが多く、焦りが出てきた。
ロウスーのやつは、頭に血が上ると何をするかわからない。遅れれば何が起こるかわからない。
イライラしながら彼女の車を見て、ひらめいた。「今、急用があるんだ。ちょっと送ってもらえないかな？本当に急いでるんだ」
彼女は顔を上げて私を見て、冷たく言った。「無理」
そう言って、マンションの方へ歩き始めた。
「くそっ！」思わず汚い言葉が口から飛び出した。「さっきやっと捕まえたタクシーも、お前を助けようとして逃した。あのまま乗ってたら今頃着いてたのに。なんでそんなに冷たいんだ。人助けくらいできないのか」
彼女は足を止めた。「私はあなたに助けを求めてないわ。余計なことをしたのはあなたでしょ」
「余計なこと？」私は怒りで血を吐きそうになった。彼女を罵って立ち去りたい気持ちもあったが、ロウスーの状況を考えると、最も早く行ける方法を選ばざるを得なかった。怒りを抑え、できるだけ穏やかな声で言った。「お嬢さん、お姉さん、どうか助けてください。今すぐタクシーは捕まらないし、遅れると本当に大変なことになるかもしれない」
私が本当に焦っているのを見て、彼女は振り向いて考え込み、言った。「あなたを助けてあげないこともないわ。私を喜ばせる言葉を一つ言えば、送ってあげる」
こんな緊急時に彼女がまだ私を困らせようとしているとは思わなかった。しかし、今は従うしかない。心の中で歯ぎしりしながらも、顔には笑顔を浮かべた。「お嬢さん、あなたは天女が舞い降りた菩薩の生まれ変わりで、美しく優しく完璧。二十数年生きてきて、あなたに匹敵する女性を見たことがない。女性を100点満点で評価するなら、あなたは120点。余分の20点は、あなたと他の女性との差を証明するためだ」
「嘘くさい！」それを聞いた彼女は、考えもせずに立ち去ろうとした。
私はすぐに彼女を引き止めた。「じゃあ、何を言えば喜ぶんだ？昨日と今日の行動について謝罪するよ。誠意を示すために、食事でもご馳走するよ」
「足りない」
「一ヶ月おごる」
「一年でも足りないわ！」
「じゃあ…掃除をするのはどうだ」私はもう策がなかった。こうなるなら、さっさと立ち去るべきだった！
それを聞いて、彼女はようやく私を見て、口角を少し上げた。「あなたが言ったのよ？あなたが触れたものすべてを洗ってもらうわ」
「問題ない」彼女の望みがそれだとは思わなかった。一回どころか十回でも構わない、今の俺は時間だけはたっぷりあるんだ。
「行きましょう」彼女は先に車に向かい、私は急いで助手席に座り、行き先を告げた。
道中、ロウスーに何度か電話をかけたが出なかった。それが心配をさらに増したが、彼女に急ぐよう促すのも気が引けた。重慶の交通状況は本当にイライラするほどひどく、夜の商業地区付近では車が列をなして進んでいた。
イライラして無意識にタバコを取り出したが、火をつける前に彼女に奪われ、窓の外に投げ捨てられた。「タバコを吸いたいなら、車から降りてください」
私は口を尖らせ、「要求が多いな」と呟いたが、車を降りる勇気はなかった。
沈黙の待ち時間は不安を募らせた。私は彼女と話すことにした。「出会って一日しか経ってないけど、もう三回も会ってるのに、まだ君の名前を知らないんだ」
彼女は私を一瞥した。「教えたくないわ」
「神秘的に振る舞いたいの？」私はくすりと笑った。「でも、さっきのおっさんから聞いたよ。シャオシャって呼んでたじゃないか」
「彼の話は持ち出さないで！」彼女は突然怒り出し、ハンドルを強く叩き、私を睨みつけた。
私は驚き、すぐに気まずくなった。確かにあの中年男性のことを持ち出すべきではなかった。二人の関係は本来隠されるべきものだ。私がそれを露骨に指摘したから、当然恥じて怒るだろう。
せっかく芽生えた会話の意欲も、私の不用意な一言で台無しになった。車内はますます沈黙に包まれ、私は窓の外に目を向け、夜景を眺めることにした。今、私たちは洪崖洞の近くにいて、遠くではバンドがビヨンドの「喜歡你」を演奏していた。この曲は私の大好きな曲の一つで、注意深く聞き入った。
車の流れはゆっくりと進み、二つの交差点を過ぎてようやくスピードが上がった。MUSEに到着したのは40分後で、普段の輔仁大道からの道のりの約2倍の時間がかかった。
車が停まるとすぐに私は急いで降り、ドアを閉める瞬間に彼女もシートベルトを外しているのを見て、不思議に思った。「帰らないの？」
「せっかく来たんだから、少し飲んでいこうと思って」彼女はバッグを後部座席から取り、ドアを開けて、さっさと私の前を歩いてバーに入っていった。