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206話

しかし、余若雪の口から「婚約者」という言葉を聞き、あの一言一言の冷たく骨身に染みる言葉を耳にした時、彼をずっと支えてきた信念も、期待も、その瞬間に崩れ去ってしまったかのようだった。

道行く人々は足早に通り過ぎていく。地面に蹲る彼に気づいてはいるが、誰一人として足を止めようとはしない。みな雨風をしのげる場所を探しているからだ。

「ねえ、あの人見て……」

「どうしたの?」

「本当に野良犬みたいね!」

「確かにそっくりだわ!」

通行人の嘲笑う声が次第に遠ざかっていくが、陸塵はまったく反応を示さなかった。

どれくらいの時間が経ったのだろう、陸塵は突然、頭上の雨が止んだことに気がついた。

思わ...