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296話

「それに、その子自分からは何も言ってないのに、俺が何でヒーロー気取りしなきゃいけないんだよ」

「警察沙汰になったら、また俺が危ない目に遭うじゃないか」

「仕方なく、傍観者に徹するしかなかったんだ」

「まさに『痛い目を見て賢くなる』ってやつだろうな」

俺は視界の端でずっとそのメガネ男を観察していた。

あいつはまだしつこく卑劣な行為を続けていた。バスが急停車した時には、その勢いに乗じて大きく動き、バスが停まると動きを止め、体を俺の方に向けて、右手で隠すような仕草をしていた。

バスが動き出すと、また始めるんだ。

その女の子は周りの人に押されてびくともできず、ただ何度も振り返るしかなかった。

それなの...