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1112話

「今の姿で雪の前に立ったら、きっと私だと気づかれないだろうな」

彼の卑しげな顔からは一筋の満足感が漏れ出し、躊躇うことなくドアを開け、階下へと向かった。

この場所を離れる時が来たのだ。

ホテルの従業員は少し不思議そうに私を見つめ、瞳に疑念の色が浮かんだ。

「この人は誰だろう?なぜ今まで見かけなかったんだ?」

従業員は首を振った。「きっと交代勤務の時に入ってきたんだろう」

私はホテルを出て、猫背の姿勢でゆっくりと路地へと歩いていった。

15分ほどで、荒れ果てた路地に一つの人影が現れた。その姿は妙に不気味で、濁った目で時折辺りを窺い、周囲に人がいないことを確認すると、ほっと息をついて木陰から姿を現...