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331話

「どうしたんだい、お嬢ちゃん。トイレに落ちでもしたのか?」自分でも感心するよ、こんな状況でもまだ冗談が言えるなんて。でも同時に、これは内心の緊張をごまかすためでしかないことも分かっていた。この震える両脚が、すでに俺の本心を裏切っていたんだから。

「あの、あの……フロントに置いてあるバッグを取ってきてもらえないかな」フロントの女の子の声は蚊の鳴くような小ささだった。

「え?」自分の耳を疑った。結局彼女は生理的な問題の手助けを求めていたわけじゃなかったのか。ただ荷物を取ってきてほしいだけだったのか!

「そう、私のバッグ。フロントに置いてあるの。取ってきてもらえないかな。私……ちょっと不便なも...