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847話

「気を付けて」

次の瞬間、私は叫び声を上げた。

「横のマセラティが急にハンドルを切って、俺たちの車の正面に突っ込んできた。『ガーン』って大きな音がして、あの時頭の中には『終わった』って思いしかなかった。恐怖が突然心の中から湧き上がって、本当に怖かった」

「その後は天地がひっくり返るような感覚だけ。俺たちの車はそのまま跳ね飛ばされて、映画のワンシーンみたいな、すごく衝撃的な光景だった。当時車は時速百六キロぐらい出てたから、巨大な慣性で車輪がすぐに地面から浮き上がったんだ」

「俺は助手席に座っていて、頭の中が真っ白になった。浩子は血走った目を見開いて、口から『あー』って叫び声をあげながら、両手でハ...