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70話

墨無痕はすでに出発の準備を整え、随行するのは二十名の禁衛兵からなる護衛隊のみだった。

皇子の儀仗も、官府の先導もない。これが防衛態勢の中で、尊い崇光皇子に与えられる最大限の軍勢だった。

墨無痕が馬に乗ろうとした時、少年の声が聞こえた。

「殿下」唐浅が前に進み出る。「殿下はもう出発されるのですか?」

墨無痕は目の前のひょろりとした少年を見つめた。大病から立ち直ったばかりで、彼はまるで青白い紙のようだった。これから起こるであろう血なまぐさい戦いの中で、いつ引き裂かれてもおかしくないほどに。

だが、そんな繊細な少年が、さきほど大昭を守る重責を担ったのだ。

心の中に、思わず痛ましさが湧き上がった。

「...