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266話

宮殿の重なり合う建物でもなく、精巧な庭石や亭もない。水溜りを踏み越え、石段を上ると、墨顔の目に多くの人々が映った。しかし、彼らは宮中のような華やかな装いをしていなかった。人々は彼女の傍らを通り過ぎても、跪いて拝礼するどころか、彼女に気づきもせず、むしろ遠巻きに避けていく。

目の前の光景は、母上が北方にいた頃、彼女と墨歓を連れて鼎南城の市場へ行った時のようだった。抱いていた猫も空気中に漂う食べ物の香りに誘われ、「ニャー」と鳴いて、なぜここにいるのか少し戸惑っていた墨顔の腕から抜け出し、最も近い揚げ魚の屋台に飛び乗った。店主は大声で罵った。

「どこから来たのか、この野良猫め!」太った店主が手に...