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164話

安靖王たちを見送った後、唐浅は一年ぶりに長寧侯府に足を踏み入れた。

館内の調度品は昔と変わらないように見えたが、空気中には多くの草木の香りが漂っていた。かすかに嗅ぎ分けられるのは、おそらく菖蒲の花が一面に植えられているのだろう。本来なら香りの薄い植物が、こんなにも芳醇な香りを放っているのだから。

唐浅は少し我を忘れた。彼が最初に彼女に贈ったのも菖蒲の花で、それで心意を表明したのだった。

あれから長い時間が経ち、彼女はもう彼が当時の二人のことを忘れてしまったのではないかと思うほどだった。

しかし今、この一面に広がる菖蒲の花に、唐浅は何か不穏な感覚を覚えずにはいられなかった。

それがどん...