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104話

墨無痕の手が止まった。信じられないという様子だった。

「唐謙、今、なんと呼んだ?」

彼は一度も、そのように自分の名を呼ばれたことがなかった。

かつては疎遠な「殿下」、そして今はさらに遠い「陛下」。

少年は飲み過ぎて、既に酔いつぶれて正気を失っていた。頬は紅潮し、非常に魅惑的に見え、声もさらに甘く柔らかい。「無痕……私を捨てないで、お願い……」

彼は本当に、自分の名を呼んでいた。

「お前を捨てたりしない」墨無痕は言った、真摯な様子で。

墨無痕は唐浅が自分の左手を握るのを感じた。あの細長い指、美しい腕が、ゆったりとした袍から滑り出て、魅惑的な腕を露わにした。

墨無痕の記憶の中で、何かが騒ぎ始めた。...