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60話

九州の境界

「九州に境あり、名山海と呼ばれ、世と隔たり、行方知れず」——山海界・序

瑶宮に階あり、九万三千、一歩一歩血滴る。血は目尻に溜まりながらも落ちず、どこか懐かしい。幾年の時を経て、人も事も変わり果てた。花十七は風に向かって登る。風の刃が彼の衣を裂き、鮮やかな赤い痕を残す。彼はか細く、一頭の黒髪は霜雪のように白い。少年の姿ながら、夕暮れのような影を背負い、白きものは血に染まり、赤い衣は人を魅了する。

「諸天の霊よ、冠を賜れ。残魂は陰となり、骨血は陽となる。この封印を破り、万劫の苦しみを受けようとも、善始善終、決して貪らず、ただこの心のみ、九州の明鉴あれ!」

砕けた詠唱が冷たい...