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138話

悠然の境界にて、花葬骨は珍しく水面に浮かんでいなかった。鏡湖にいた頃は甘やかされて、座るより横になり、立つより横たわることを好んでいたというのに。黄泉の花は水底に根を持たず、その咲き誇る様は何かを告げているようだった。彼は「過去」という禁断の領域に触れないよう自制していた。きっと凄惨な記憶なのだろう、さもなければ忘れようとはしなかったはずだ。どれほどの憎しみでも手放せない執着があるものだが、忘れることを選んだ彼は、もう全てを手放したのだろうか。

「たぶん少し分かった気がする。私に思い出させたくないのは、彼のことだからだろう」

背後から溜息が漏れ、花葬骨は振り向かなかった。冷たい抱擁が背...