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252話

暗紅色の髪が炎のように空気中で舞っていた。

その髪の主は、組織内で極めて神秘的な存在である「御鯨者」だった。

御鯨者は組織内では伝説のような存在で、誰もが彼女が暗紅色の髪を持ち、いかなる交通手段も使わずに大洋を単独で横断できることを知っていた。

ある者は彼女をポセイドン、海の神と呼び、その最たる証拠として巨大な鯨を自在に操ることができるという事実を挙げた。

体格の巨大さゆえに、鯨は海洋ではほとんど敵がおらず、そのため御鯨者も海上では敵なしだった。

御鯨者は鯨を操ることで、どんな沿岸国家にも簡単に行くことができる。うん——パスポートすら必要としないのだ。

もちろん、この密入国行為のせいで、御鯨者...