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889話

故郷ではこの時間、すでに真っ暗で万物が静寂に包まれている頃だろう。これこそが田舎と都会の最も顕著な違いだ。現代文明は次々と不夜城を生み出したが、生命界の多くの本能を放棄してしまった。人間も動物も植物も、休息が必要なはずなのに、万物を支配する人間が、そんなことを本当に考えたことがあるだろうか。

「すべては浮雲」と言う人がいるのも無理はない。

夫と一緒にいられるなら、毎日客間に布団を敷いて寝てもかまわない、と彼女は思った。毎晩あんなことをしなくても、彼にもたれかかって一緒に横になれば、孤独も鬱屈も感じないだろう。物質的な生活に関して、彼女はそれほど要求が高くない女性だった。ただ感情面では、比較...