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744話

林舞児はこんな哀愁漂う曲調の歌なんか好きじゃない。

父親が若い後妻を娶って亡き母を裏切ったことに腹を立て、一発殴られたことで家を飛び出し、世間を二年も渡り歩いた女の子。泥棒をしたこともあれば、飲み逃げもし、宅配便の配達もして、ロブノールに一人で行っても生きて帰れる、埠頭で大きな荷物を担ぐような女の子――おそらく悲惨な人生を送ってきたのだろう。

しかし彼女は、刺されて血を流しながらも歯を食いしばって高らかに笑い、嵐よもっと激しく来いと叫ぶような女だ。こんな歌を歌うはずがない。

歌うなら「大河は東へ流れ、天には北斗七星——出るべき時に出る」といった歌だろう。

『白狐』のような歌は、花が散れ...