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629話

いつものように冷たい床に横たわって深い眠りについた岳婉晨は、正午に目を覚ますと、毛驴の姿が見当たらなかった。

毛驴がどれほど賢くても、文字を書けるわけではない。岳婉晨に小さなメモを残して「おい女、俺は行くぜ。一人で兄貴を探しに行く。お前は一人の時、自分を大事にして、しっかり生きろよ。『しっかり生きてのらりくらりやってりゃ、一年で一万以上稼げる』って昔の人が言ってただろ?」なんて伝えられるはずもない。

せいぜい、毛驴が寝室に駆け込んで岳婉晨のナイトガウンを咥えて彼女の上にかけ、それから迷いなくホテルを後にして、兄貴を一人で探す危険な旅に出ることくらいだった。

しかし毛驴は知らなかった。自分...