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618話

失忆というこの病は、本当に不思議な病だ。

陸寧を例にとってみよう。彼は自分が誰なのか思い出せず、以前知っていた人々や経験したことも覚えていない。だが、小学生の頃に学んだ『登鸛雀楼』はハッキリと記憶していて、厚かましくもグリンデにそれを自慢していた。

実際、陸寧にもわかっていた。金と美女しか眼中にないグリンデのような田舎者が、我が中華の千年も伝わる名句の素晴らしさを理解できるはずがない。

彼に話しかけたのは、単に陸寧が彼以外に知り合いがいなかったからだ。

ただ、こんな未開の地でも目の利く人間がいるとは思わなかった。

しかも、あの甘ったるい声から判断すると、この目利きは美女に違いない——...