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282話

退社するまで、水暗影はずっとイライラしていた。

仕事のことではなかった。彼女が社長として過ごす日々は実に気楽なもので、オフィスでコーヒーを飲み、部下の報告を聞き、書類にサインするだけで全て完了する。

正直なところ、啓新グループは今や正しい方向へ疾走する車のようなもので、水暗影というトップがいようといまいと、中間管理職たちが会社の通常運営を維持できるのだ。

彼女がイライラしているのは、やはり葉明媚のことだった。

退社間際、葉明媚のボディガードである小四が茶色の封筒を届けてきた。

中には葉明媚が朝約束したものが入っていた——東城区にある価値一億の高層ビルのフロア一つ。

そして小四に伝言...