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614話

豆児はもうそんなことを気にしていないようで、振り返って笑いながら言った。「あなたに会えて良かった。そうでなければ、いつまで立ってたことやら」

「私も帰るところだから、ちょうど会えただけだよ」

私は言った。「それって、縁があるってことだね」

豆児は嬉しそうに言った。彼女が喜ぶと、口元が一文字に結ばれて、とても可愛らしい。

「あ、えっと……」

私は言葉に詰まった。豆児に対して、どんな立場で接すればいいのか分からなかった。彼女があの仕事をしていて、私もその仕事がきっかけで彼女を知ったのだが。妻に似ているからなのか、それとも彼女が私に親切だからなのか、私はずっとあの関係での立場で彼女と向き合...