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1161話

男は笑って、トヨタ車に手を振った。車はエンジンをかけ、男の元まで走り寄り、彼を乗せると先頭に立ってマンション外へと走り去った。私は明かりの灯る上階の窓を一瞥すると、仕方なく方向転換し、後を追った。

途中、やはり我慢できずに妻に電話をかけ、少し用事ができたから帰りが遅くなるかもしれないと伝えた。言葉の中に謝意はあったものの、やはり後ろめたさは拭えなかった。妻は聞いても取り乱すことなく、ただ早く帰ってきてほしい、家で待っていると言ってくれた。私は仕方なく承諾した。

電話を切ると、心の中がどこか空虚な気持ちになったが、前方を縫うように走るトヨタ車を見て、意識を現実に引き戻すしかなかった。十数分走...