




1話
井燃はG大学のデザイン学科の三年生で、生粋の食いしん坊として、余暇のすべてを食べ歩きに費やしていた。最初はルームメイトも新鮮さを感じて一緒に美食を探し回っていたが、やがて「ゲームの方が食べ歩きより面白いじゃないか」と思うようになった。誰もこの超級グルメを理解してくれないなら、と井燃は自分で動画を撮って食レポを共有し始めた。ある動画プラットフォームにアップロードしたところ、いいねの数が驚異的に伸び、あっという間に数十万人のフォロワーを持つフードブロガーになっていた。フォロワーが増えるにつれ、井燃の共有動画はより丁寧になり、それに費やす時間も増えていった。専門科目と動画更新頻度のバランスをどう取るべきか悩んでいたとき、隣の寮室のジャーナリズム専攻の虞一同が自ら井燃に連絡してきた。彼が撮影と編集を担当し、井燃は店舗探しと食レポを担当することで、二人はすぐに意気投合した。こうして動画はより専門的になっただけでなく、学業にも支障をきたさなくなった。
「一同、今週の金曜の夜は春暁路の和野酒屋で撮影する予定だ。今夜俺が先に店主と会って、金曜にまた一緒に撮影に行こう」と井燃は地下鉄の中で虞一同にメッセージを送った。
「了解」虞一同はいつも寡黙だが、仕事は真面目にこなす男だった。
地下鉄を出てすぐに酒屋の看板が見えた。ちょうど夕暮れ時で、酒屋の外には暖かな灯りが灯り始めていた。
「こんにちは、Xアプリのフードブロガー、井燃と申します。店長さんにお会いしたいのですが」と井燃はフロントの女の子に自己紹介した。
フロントの女の子は厨房から店長を呼び出してくれた。一通り話した後、店長の秦晋は自分の店の特色料理について紹介し始めた。言葉だけでは説得力がないと思ったのか、井燃を座らせてじっくりと店の看板料理を味わってもらうことにした。あっという間にテーブルは料理でいっぱいになり、秦晋は少し説明した後、他のお客さんの対応に行った。井燃は美食に集中しながら、どの料理を動画で使うか、何を重点的に紹介するかを考えていた。
ふと目をやると、隅のテーブルに一人の男性が座っていた。シャツにスラックス姿で、ネクタイの先端はシャツに挟まれ、スーツの上着は椅子の背もたれにかけられていた。スラックスからは細い足首が覗き、光る革靴は埃一つない。髪は長すぎず短すぎず、眉は濃く、横顔から見える鼻筋は通っており、顎のラインははっきりしているが冷たさはなかった。井燃は彼の目元ははっきり見えなかったが、じっと見つめてぼんやりしていた。どうして自分の審美眼にぴったり合う人がいるのだろうか。心の中で熱いものがある場所まで達し、井燃はMだった。
実践経験はないものの、理論知識は山ほど知っている彼は、見知らぬ男性に反応してしまう自分が恥ずかしかった。その男性はただ夕食を食べに来ただけのようで、食べ終わって立ち上がろうとした瞬間、井燃は突然駆け寄って向かいの席に座った。何を言うべきか考えていなかったが、一つは男性の顔をはっきり見たかったこと、もう一つは彼と知り合いたかったからだ。
「井燃です、よろしく」井燃は歯を見せて手を差し出した。このとき初めて男性の顔をはっきりと見ることができた。絶世の美男子とまでは言わないが、女媧娘娘が心を込めて作り上げた作品のようだった。ただ、男性の眼差しは鋭く、いくらかの苛立ちが混じっていた。
「何か用ですか」男性は手を差し出すこともなく、少しも驚いた様子もなかった。おそらく声をかけられることが多すぎて慣れているのだろう。
「実は、私はフードブロガーで、今日はこちらのお店の料理を試食しに来たんです。お客さんからこの店の料理の評価を聞きたいなと思って」井燃は静かに手を下ろし、目をきらりと光らせてアイデアを思いついた。心の中で自分の機転の良さを褒めた。