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37話

彼女が偶然ぶつかってしまったのは、ただの人ではなかった。噂の人殺しに目もくれない狂人、誰もが恐れる恐ろしい存在だった。

見た目だけなら、この狂人は実に風格のある男だった。彫刻のように立体的で美しい顔立ち、月白色の竹布の長衫が背筋の伸びた姿をより一層引き立てている。

「す、すみません、わ、わたし、わざとじゃなくて…」

相手の表情を見る勇気もなく、大変なことをしでかしてしまったと思った戴月荷は、うつむいたまま言葉を詰まらせながら謝った。

この狂人のことは嫁ぐ前から噂を聞いていた。何度か見かけたことはあったが、いつも遠くからだけ。今こうして正面から出くわし、さらに彼にぶつかってしまったことで、彼女の...