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153話

「これは見慣れない顔だな」と皆は思った。誰も知らなかったが、言瑟はその声を聞いただけで何となく察していた。

彼女は今出て行けば何が待ち受けているか分かっていたので、洗面所に隠れることにしたのだ。

皆はこの人物が何者か知らなかったが、その口調からして手強そうだった。しかも後ろには二人も連れがいて、着ている服も高級品だ。それに、ここは家族寮だ。自由に出入りできるということは、相当な立場の人間に違いない。

だから誰も関わりたくなかった。特に言瑟は。

「出てきなさい!」

「よくも人の夫に手を出したわね、堂々と出てこられるなら出てきなさいよ!」

林慧芬は集合住宅の廊下に立ち、小さなバッグを肩...