3話
「くそっ、なんて我慢させられてるんだ」
彼女は運転席の後ろで手当たり次第に手を振り回し始めた。それだけでなく、足まで使って蹴り始めたものだから、運転席がガタガタと震えている。この調子では、しばらく大人しくなることはないだろう。
くそっ！
これ以上暴れさせるわけにはいかない。
「もし誰かに見られたら、俺が誘拐しようとしてると思われるに決まってる。そうなったら、黄河で体を洗っても疑いは晴れないぞ」
そう思うと、俺は慌てふためいた。
急いでサイドブレーキを引き、エンジンを切り、外を見回して人がいないのを確認すると、すぐに車を降りて後部ドアを開けた。
車内に身を乗り出し、彼女がこれ以上暴れないように抑えながら、服を整えようとした。
そのとき、俺は困ってしまった。
これがセクハラになるのかどうか分からない。誰かに見られたら終わりだ。焦った俺は、彼女の両手を頭上に持ち上げて固定し、これ以上暴れないようにして、とりあえずここから離れようと考えた。
ところが、俺が車から出ようとした瞬間、彼女がまた暴れ始め、靴を蹴り飛ばして、小さな足をあちこちに振り回し、前の座席を何度も蹴った。
「このバカ！」
くそっ！
「なんで俺を罵るんだよ。お前に何かしたか！」
彼女の赤らんだ顔を見て、ゴクリと唾を飲み込み、心の中で自分を責めた。
「林陽よ林陽、お前は世界一の大バカだ。こんな絶世の美女が酔っぱらって目の前にいるのに、手を出せないなんて、臆病者め！」
俺は激しく頭を振って、そんな邪念を振り払った。理性が告げている——今彼女に手を出せば、確実に終わりだと。
この女性は身分の高そうな雰囲気を漂わせている。
俺は手を伸ばして彼女を押さえつけ、これ以上動かないようにした。靴を履かせようとしたその時、彼女の小さな手が首の辺りを掻き始め、可愛らしい顔に苦しそうな表情が浮かんだ。
「うぅ...」
俺は頭を掻きながら、次の瞬間にはハッと気づいた。彼女は気性が荒いだけでなく、かゆみも出ているようだ。もしかしてアルコールアレルギーなのか？
彼女を早く落ち着かせるため、急いで首の周りを確認した。
首の周りが赤く腫れているのが見えた。困ったことに、周りには薬局もない。
困り果てていたとき、サイドブレーキの横に青い薬の箱が目に入った。すぐに手に取って症状を確認すると、まさにアレルギー治療薬だった。
後部座席にもたれかかっている韓冰を見て、思わず笑みがこぼれた。飲酒しに来る人がアルコールアレルギーの薬を持ち歩いているなんて、初めて見た。
ドアのポケットから水のボトルを見つけ、説明書通りに薬を飲ませると、しばらくするとアレルギー反応が治まってきた。
くそっ！
薬がこんなに効くのか。でも自分がアレルギーだと知っていて、なぜ酒を飲みに来るんだ？
初めて時間を見た子供のように、俺は好奇心いっぱいで彼女を見つめ、心の中の疑問が深い思考へと誘った。
その思考にすっかり浸っていたとき、突然、店長の大きな叫び声が聞こえてきた。
「林陽、まだ行ってないのか！」
突然の叫び声に驚いて、手に持っていた水を韓冰の服にこぼしてしまった。
服を拭く余裕もなく、急いでミネラルウォーターと青いアレルギー薬を拾い上げ、彼女の上着を整えると、素早く車から這い出した。その速さといったら尋常ではなかった。
車から出た瞬間、何かがドアから飛び出したような気がしたが、慌てていた俺はそれが何なのか確認する余裕もなく、急いでドアを閉めた。
「あの、彼女がかなり吐いて、俺の服も汚れちゃって...今すぐ送っていきます！」
店長の返事を待つこともなく、急いで運転席に戻り、車を発進させた。
駐車場を出ると、ほっと一息ついた。額には冷や汗が浮かんでいた。危なかった。
もし店長が叫ぶだけでなく直接近づいてきていたら、本当に終わっていた。仕事を失うだけでなく、最悪牢屋行きだったかもしれない。
バックミラーを通して後ろを見ると、韓冰がまた暴れ始めていた。
くそっ！
「この小悪魔は本当に手がかかる」
俺は口の中でぶつぶつ言いながらも、目は彼女から離せなかった。
彼女は両手で運転席の後ろの収納部分をつかみ、激しく引っ張っていた。
第一巻