3話
陳紫瓊は先ほどの四人の大男たちに本当に怯えたのか、ずっと楊塵の後ろをついて歩いていた。でも彼女は楊塵に近づきすぎると自分を見失ってしまうのではないかと不安で、常に十メートルほどの距離を保っていた。
彼女は考えた。もし楊塵が何かしようとしたら……すぐに逃げよう、そう、すぐに逃げる。もしさっきの大男たちが戻ってきたら、楊塵に助けを求めて飛びついてしまおう。
ええ、この女性はそう考えていたのだ。
道中、楊塵は一言も口を開かず、ただ無表情に街を歩いていた。その背中は陳紫瓊の目には、どこか寂しげに映っていた。
およそ三十分ほど歩き、楊塵はあるマンションの敷地に入り、最終的に3棟405号室の前で立ち止まった。
陳紫瓊は思案した末、結局彼の後についていくことにした。
楊塵が鍵束を取り出し、振り返って陳紫瓊に悪戯っぽく笑いかけ、眉を上げながら言った。「怖くないのか？俺が……」
陳紫瓊は楊塵と一緒にいるのは気が進まなかったが、さっきの不良たちと比べれば、楊塵の方がまだ安全だった。「あとでお父さんとお母さんに真相を話すわ。二人がいれば、あなたなんか怖くないわよ」
楊塵は軽く笑い、ドアを開けて中に入った。
陳紫瓊が部屋に入ると、かなり広々としていることに気づいた。百平方メートルほどはありそうだった。
青州市の中心部でこれだけの広さのマンションを購入するのは大きな投資で、普通の人には手が届かない。しかも部屋は非常に清潔で格調高く装飾されており、楊塵がそれなりにお金持ちであることが窺えた。
「意外ね……普通のウェイターがマンションを買えるなんて、きっと裏で何か怪しいことをしているんでしょ」陳紫瓊がさらに言葉を続けようとした時、突然六十歳ほどの老人がソファに座ってむせるように煙草を吸っているのに気づいた。老人は激しく煙を吸い込み、一本をあっという間に吸い終えると、すぐに次の一本に火をつけていた。
なぜか、老人のそんな焦りの様子を見て、陳紫瓊は言葉を失った。彼女の心には同情の念さえ湧いてきた。
楊塵は静かに老人の側に行き、手から煙草を取り上げた。「お父さん、小敏はまだ帰ってないの？」
老人は深く眉をしかめ、うなずいた。「ああ、あの野良猫のような娘は毎晩帰ってこない。一ヶ月のうち家にいるのは十日もないさ。いつもあんな不良学生たちと一緒で、家に帰ってくるのは生活費を要求するとき以外にはない。この前、学校から電話があってな、小敏が喧嘩に参加して、男子学生の口を裂いたそうだ。男の子の親が賠償を求めていて、学校はすでに小敏を退学させると言っている。塵よ、小敏はまだ職業学校の三年生だぞ。今退学になったら、これからどんな未来があるというんだ」
楊塵は老人の前にしゃがみ込み、真剣な面持ちで言った。「お父さん、安心して。小敏のことは僕が何とかするから。あまり心配しないで、時間があるときは隣の阿花さんちのおじいさんたちと外出して活動した方がいいよ。ずっと家に閉じこもって気を病んでいたら、体に良くないよ」
老人は悲しそうに涙をぬぐった。「陳敏は私の唯一の孫娘で、陳強の唯一の血筋だ……陳強はもういない。私は年老いて、役立たずだ。いつ死ぬか分からない……でも陳敏のことが心配でならないんだ……彼女は我が陳家の唯一の血を引く者だ。お前は陳強の親友だった。頼れるのはお前だけだ……」
老人は話すほどに悲しくなり、ついに涙を流した。
伝統的な考え方では、親は子を何よりも大切にする。年長者にとって、子供が堕落する姿を見るほど辛いことはない。
楊塵は手を伸ばして老人の肩を支えた。「陳強のことは僕のことでもあります。お父さん、安心して。陳敏のことは必ず上手く処理します。陳敏をちゃんと教育できなかったら、僕、楊塵は将来嫁さんをもらえなくなってもいいです」
楊塵の冗談で重苦しい雰囲気が和らぎ、老人も涙を抑え、それ以上泣き続けることはなかった。
傍らの陳紫瓊はこの瞬間、楊塵の目に光る涙を明らかに見た。彼の表情は突然非常に毅然としたものに変わり、まるで泰山のように、雷にも風雨にも揺るがない強さを感じさせた！
老人はようやく安心したように見え、視線を陳紫瓊に向けた。「この方は……」
楊塵は答えた。「これは僕の……あまり親しくない同僚です。今夜は家に一晩泊まります。お父さん、もう遅いから寝た方がいいよ。明日は早起きして朝の運動に行くんでしょ」
老人は意味深げに陳紫瓊を一瞥し、それから何かを悟ったように立ち上がって部屋に戻った。「わかったよ！いいとも、邪魔はしないから、夜遅くにお嬢さんに何か食べるものを作ってやりな。お腹を空かせちゃいけないよ」
「はいはい、お父さん、もう寝て」楊塵は急いで父親を部屋に押し込み、出てきたときには困ったような顔をしていた。
陳紫瓊の態度はいくらか柔らかくなり、楊塵に対する印象もわずかに改善された。
少なくとも、この男は情に厚い人間のようだった。
楊塵はさりげなく尋ねた。「何か食べる？」
「いいえ、お腹は空いてないわ」
「じゃあ、今夜は小敏の部屋で寝てくれ。部屋には小敏の服があるから、適当に着替えてくれ」楊塵は一つの部屋のドアを開けた。「お風呂場はあっちだ。夜に出るときは静かにして、老人を起こさないようにな」
楊塵は自分の部屋に戻って寝ようとしたが、言葉が終わらないうちに陳紫瓊に遮られた。「急にお腹が空いたわ……何か食べたいな」
楊塵が口を開こうとすると、陳紫瓊が先に言った。「さっきおじさんが私に何か食べ物を作るように言ってたでしょ。約束は破れないわよ。男の人は言ったことを守らないといけないんだから」
楊塵は頭が固くなるのを感じた。「じゃあ、お嬢さん、何が食べたいの？」
「あなたの得意料理でいいわ」
楊塵はほっとした。この女の子が何かイタリアンピザとかを要求するわけではなさそうでよかった。
楊塵はキッチンでしばらく作業した後、黄金色に輝く大皿の卵焼きを持ってきた。中には細ねぎがたくさん入っていて、香りが食欲をそそった。
陳紫瓊は遠慮なく箸を取り、小さな一片を口に入れて咀嚼し始めた。
「味はどう？」楊塵は尋ねた。
「香ばしくて甘くてサクサク、美味しいわ。意外ね、こんな腕があるなんて。毎日これが食べられたらいいのに。どうやって作るの？」陳紫瓊は狼のように食べ、あっという間に卵焼きを平らげた。
楊塵は言った。「これは僕の得意料理なんだ。昔は小雨も小月も強子も……」
楊塵の声は突然途切れた。何かを思い出したかのように、それ以上は話さなかった。「もう遅いから、食べ終わったら早く寝た方がいいよ」
楊塵は部屋のドアを閉めた……
……
翌日、楊塵は早くに朝食を作り、三人で食べた後、一緒に家を出た。老人は年配の友人たちと朝の運動に行き、楊塵は学校へ陳敏の件を処理しに行くことになり、陳紫瓊は当然ながら家に帰るつもりだった。
バス停で別れる際、陳紫瓊は心の中で不思議な名残惜しさを感じていた。彼女は楊塵がまるで男らしくないと思った。少なくとも、彼女の電話番号やQQを聞いて、今後連絡が取れるようにするべきではないか。
しかし楊塵はただ立って黙っており、目に浮かぶ冷静さが故意に装われたものなのかどうかは分からなかった。
バスが来て、人々が押し合いへし合いしながら乗り込む中、楊塵はようやく口を開いた。「あの日、バーの個室で、僕はただ掃除に来たウェイターだった。君に何もしていない。分かっているはずだ、僕はただ君に服を着せようとしただけだ」
言い終わると、楊塵は手を振り、陳紫瓊がバスに乗るまで立ち去らなかった。
楊塵がそれほど遠くに行かないうちに、後ろから呼ぶ声がした。振り返ると、なんと陳紫瓊だった。
「どうしたの、帰らないの？」楊塵は叫んだ。「お姉さん、頼むよ、僕はただのウェイターで、大した財産もないんだ。僕に目をつけないでくれよ」
「私……実は嘘をついたの。実家は青州にはないわ。揚州の人間で、最近家族が結婚を強制してきたから、同意せずに逃げ出してきたの……お金は全部スリに取られて、青州では知り合いはあなただけ……」陳紫瓊は非常に困った様子で言った。実はさっきバスの中から楊塵の遠ざかる背中を見ていたとき、その瞬間、彼女の心の奥深くで何か不思議なものが動いたような気がした。
楊塵はそれを聞いてやや安心した。最近では、雷鋒兄貴のように老人を助けようとしたら、老人がわざと転んで賠償を要求するという話もある……世の中は複雑だ。
楊塵が安心したのは、少なくとも陳紫瓊がそういう人間ではないということだった。「今どき、親が決めた婚約なんてまだあるのか」
楊塵は気前よく財布から五枚の百元札を取り出し、陳紫瓊の手に渡した。「忘れるところだった。これを持って、旅費にしてくれ」
陳紫瓊はお金を受け取らず、何も言わず、ただ困った顔で楊塵を見ていた。
楊塵は仕方なく言った。「お嬢さん、もう言ったじゃないか。僕はただのホテルのウェイターで、君に何もしていない……僕にすがらないでくれよ。それに、僕はまだ十八歳で、成人したばかりだ。結婚適齢期でもないんだから、僕に目をつけないでくれよ」
十八歳？陳紫瓊は思わず噴き出した。「家に帰ったら、父がまた結婚を強制するわ……しばらくここにいさせてくれない？」
「そんな……」
「お願い……」
「はぁ！」
この女性の粘り強さに抵抗できず、楊塵はしばらく考えた。「こうしよう。ちょうど家には父の面倒を見る人が必要だ。これからは家に住んで父と話し相手になってくれ。食事と宿泊は提供する。給料は…適当に払うよ。どう？」
「ケチね……給料は適当って」
「嫌なら結構」
「いいわ、承知したわ……」
「じゃあ今すぐ家に戻って」
「道を忘れちゃった……」
楊塵は言葉もなく、仕方なくこの女の子を連れて青州市職業技術学校へ向かった。
青州市職業技術学校は職業訓練校で、そこの学生のほとんどは時間つぶしに通っているだけだった。
教師たちも気分次第で授業をしていた。気分が良ければ授業中におしゃべりや愚痴をこぼし、気分が悪ければ学生に自習をさせるか、おとなしい学生を何人か見つけて大声で叱りつけて鬱憤を晴らすか、あるいは単に学校に来なかった。
学校の多くの教師も日々をやり過ごすだけだった！
その学風はお察しの通りだ。