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146話

風薫る心地よい日に、田小野は自ら荷物を持って、雲想を墨星澤の住まいへと送り届けた。

墨星澤はマンションの下で二人を出迎えていた。

本来なら車で迎えに行くつもりだったが、田小野に断固として拒否されていた。彼女がどうやって雲想を連れてきたか、後で雲想を迎えに行くときも同じようにするべきだと。

墨星澤は彼女と言い争うことはしなかった。彼の領域に一度足を踏み入れたら、もう逃げ出す可能性はないのだから。

「小野、私、アパート借りて住めるよ」雲想は三十八回目となる言葉を振り向きながら田小野に告げた。

彼女には理解できなかった。なぜ田小野が自分を墨星澤の家に住まわせようとするのか。以前は雲想と墨星澤がべ...