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53話

私は椅子から立ち上がり、部屋の中を二周ほど歩き回りながら、夢の中で起きたことを必死に思い出そうとした。

これはあまりにも驚くべきことだった。

驚きと同時に、恐ろしくもあった。

幸いキスだけで済んだが、もしその時に相手が何か悪意ある行動に出ていたら、九つの命があっても足りなかっただろう。

私の上に掛けられていた上着が証拠となり、間違いなく誰かが来ていたことは確かだ。夢の中で嗅いだあの香りは、私にとって馴染みのあるものだったはずだ。そうでなければ、あんなにリラックスして再び眠りに落ちることはなかっただろう。

私を密かにキスした人物は、鐘紫荷以外にいないだろうと思った。

ここでは、蘇科長...