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29話

鐘紫荷の一挙一動には、何か特別なものがあり、その雰囲気に私は深く惹きつけられていた。

学院を離れて女子刑務所に来るまでの間、夏薇の別れも告げない失踪を経験し、純粋な恋愛や愛情への信念が一時揺らいでいた。

正直、もう二度と恋愛なんて信じられないかもしれないと思っていたほどだ。

だが目の前にいる鐘紫荷に対して、わずか二時間ほどで心が動いてしまうなんて、あまりにも不思議なことだった。

「林隊長」

鐘紫荷の柔らかな声に、ぼんやりしていた私は我に返った。

「ああ、来い。今は特に用事もないから、一緒に部屋を掃除しようか」

私は取り繕うように手を伸ばし、鐘紫荷が持っているモップを受け取ろうとし...